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非中央集権的通貨思想とビットコインの未来

ビットコインは非中央主権的な通貨として誕生した仮想通貨だ。
その根本思想は、既存の金融システムに対する挑戦的な部分もあるが、これからの通貨の在り方を問いかける建設的な思想とも言われる。
ビットコインの通貨に対する思想と通貨と金融システムの関係、そしてビットコイン等の仮想通貨が築く将来の金融システムについて考えてみたい。

ベネチアで生まれた債権としての通貨

通貨の歴史は古く、紀元前から物々交換の代わりに様々な通貨が登場していた。だが、近代資本主義の萌芽である債券発行通貨は、海上都市国家ベネチアで誕生したと言われる。

14世紀に巨富を築いたドイツ(バイエルン公国)のフッガー家は、ベネチアとの交易に国内の銀鉱山から得た銀(当時の国際取引の標準的手段)がその原資だった。
当時、ベネチアに集積される香辛料等高額商品の決済のために銀には旺盛な需要があり、貿易と銀生産で得た資本により、フッガー家はスペインやローマ教皇への貸付業務を行う銀行として中世カトリック世界を支えていた資本家だった。(その後新大陸の銀生産により没落)

債券(銀行貸し付け)は、利払いにより資本を増加させる資本主義の根幹的な仕組みで、大航海時代以降の西欧経済の発展を支えた重要な機能だ。将来の通貨価値を利払いにより交換することで、信用創造(債券や借入金による資本増加)から、資本の投下による産業の活性化を生んだのが近代の重商主義経済と言われる。

その後も、兌換通貨としての銀貨や金貨は、新大陸発見以降に膨張した海外貿易・世界経済を潤滑に運営する機能を持ち続け、基本的に近代資本主義から現代まで続く。
だが20世紀に入ってからは、兌換通貨は貿易決済通貨としては実質的に消滅し、無限に信用創造可能な通貨が貿易等の経済活動の主役となり、基軸通貨のドルを中心とした金融の力が実体経済を左右するようになっている。

通貨の信用創造と金融資産の膨張

そして現在は、実体通貨さえ衰退・消滅傾向にあり、代わってデジタル通貨や帳簿上の通貨が経済の潤滑油として、信用創造と取引に利用されている実態だ。
このタイミングでビットコイン等の仮想通貨が登場したのは、歴史上の必然だという論者もある。

本来、通貨の機能は貿易等の取引に必要な媒介物であったが、資本主義経済では将来価値を先取りして資本を形成し、膨れ上がった信用によって膨張させた資本が実体経済を支配する仕組みだ。
だが、預金者等の利用予定資産を利払いで資金に変えることには、結局将来的なインフレを招く構造的な問題があり、経済成長が止まった場合のインフレ抑制を主目的とする中央銀行の金利コントロールが機能しない時代になりつつある。

20世紀初頭以降のアメリカと大戦後の日本や中国などが世界経済の成長を支え、今後はインドがある程度その役割を担うと思われるが、その先の経済成長エンジンとなる国家等があるかどうかは疑問だ。
世界経済が通貨と信用の膨張によって極端なインフレにならない原因は、中央銀行の金融政策の効果ではなく、流通等の効率化と生産性の向上、常にその時点の途上国が経済発展で需要と生産を拡大できたからで、今後、中国やインド等の成長が止まれば、必然的に不況とハイパーインフレが登場すると述べる経済学者もいる。

日本の超金融緩和とインフレ抑制

現代資本主義は、産業資本の形成を軸にした発展から金融主導に移行したと言われる。
多くの企業が最高益更新を続けているが、日本に景気上昇の実感はなく、実質賃金レベル、消費性向においては不景気状態が続いている。(特に勤労者世帯の実感)
実体経済が長期不況になれば、需給ギャップを埋めるために政府等は大規模財政出動を行うが、財源としての増税が困難として国債の増発とゼロ金利政策等の超金融緩和による企業収益増加に頼ったのが、最近の日本の経済状況だ。

本来の日銀管理通貨制度は、必要な通貨量を発行しながら資金供給で長期不況からの実体経済の回復を目指すはずだが、デフレ不況下で資金量拡大から生産拡大に移る経済の自律的循環成長を実質的に断念しているとの考えもある。
(参照:現代の理論「もはや資本主義経済の自律性は機能しない」経済アナリスト 柏木勉氏論文

日銀が国債を金融機関から購入した資金は今の所、民間金融機関が保有したままで、市中に流出していない(資金需要が弱い)ため、経済学が予測する「超過需要から発生する悪性インフレ」は起きていない。だが、通貨供給がインフレを抑制する範囲内にあるわけではなく、極端なデフレマインドにより消費が抑制されているだけだろう。

今後、例えば高齢者世帯が生活のために預金の取り崩しを増加するなど歯車が逆回転した途端、一気にインフレが進む危険性が指摘されている。(悪性インフレは歴史的に見ても、突然発生し急激に進展している)
将来的に大規模な歳出削減あるいは増税がない限り、財政再建、プライマリーバランス黒字化は難しいだろう。

政府が銀行券を発行し、財政出動に充てるという「ヘリコプターマネー」による景気刺激策の提案もあるが、兌換通貨で金を採掘して通貨量を増加させる場合と異なり、これは最終的にはインフレ発生危険の非常に高い施策だ。

「リスク回避の円」という宗教に近い円高局面が続き、莫大な政府債務にもかかわらず円の価格は高止まりの現状だが、その実力は多くは国民が保有する預貯金でカバーされているに過ぎないとの見方も根強い。
そして、世界経済についても広範な金融緩和の果てに悪性インフレが始まり、結果として世界同時不況に陥る危険性が密かに囁かれており、悪性インフレの兆しには常に注目したい。
こうした将来不安が、日本での仮想通貨取引活性化の一因という観測も出ている。

エコロジーとエコノミーの対立

経済活動におけるエントロピー(物や熱の混合度)の増加と石油資源消費に伴う廃棄物の増加(有害物質を含む)について、作家エンデは小説「モモ」で、時間貯蓄銀行が生んだ第三次大戦(時間戦争)に発展させた寓話で描いた。

複雑化した世界経済は、非効率的な通貨の流通と際限の無い通貨膨張を生み、効率的な経済を阻害していると言う発想はビットコインだけの思想ではない。
インターネットによる国境のない経済システムにとって、金融システムの潤滑に欠かせない通貨の存在は必須だが、それだけに、より経済的・効率的な高規格通貨が望まれるのも必然だろう。

日本国債の大量発行は、エンデが言うような「将来にわたる子供の時間を奪うもの、将来的なインフレを約束し、貴重な未来の時間を奪う行為」なのかも知れない。
貯蓄に付与される金利が一義的に将来への投資であり、現在の消費を利子と引き換えに時間として払い込む行為を意味するのならば、ゼロ金利国債の発行は無償で子孫の時間を奪っていることになる。
企業は金利で時間を買うと言われるが、企業の支払う金利がほぼゼロになっている今の時代は最小コストで将来の時間を購入していることになり、預金者は未来の(多くは子孫の持つ)時間を譲り渡しているという極端な論理も否定できない部分がありそうだ。

通貨の膨張が金利付与という仕組みから離れてしまえば、金利のつかない仮想通貨を否定する論拠が一つ消えることになる。
既存の通貨制度が確立して十分な歴史があるために、人々は通貨価値が保証されたものと感じがちだが、実の所、通貨の価値は国・中央銀行が「通貨そのものの絶対価値」を保障しているわけではない。

国家等は、法律等で税金の支払い(政府は租税の算定に通貨を利用する)や損害賠償金額等を決定し、一定の流通必要性を持つ支払い手段とし通貨を定めてはいるが、経済活動において決済のために利用される通貨は交換媒体としての価値が物価上昇や為替相場で刻々と変動しているものだ。
そのため、仮想通貨の売買で良く話題になる様に、法定通貨の価値に信頼が無くなった国には、ビットコイン等に資金が大きく流動する事実がある。

ビットコインの思想と普及

こうした既存通貨制度の破綻を予測したかのようなビットコインをはじめとする仮想通貨の登場には、その非中央集権的思想に基づく非管理型通貨の安定性が支持されている側面もあるのだろう。

ビットコインは、創立以来「個人間の自由な取引」と「非中央集権的通貨」という考えを明らかにしており、マネーローダリングや不法取引等への利用が批判されても、非中央集権の自由と匿名性を持つ通貨が必要であるとの主張は変えていない。
仮想通貨取引の悪用阻止は大きな課題だが、今後のG20等でも議論される見込みであり、特殊なタグの組み込みなど技術的に不正利用を排除できる仕組みが検討されるかもしれない。

コインチェックのネム流出事件を受けて取引所での既存通貨交換の制限(監視)強化等の動きもあるが、交換取引所の集権的な権限を認めることとなりかねないため、基本思想とは相いれない。犯罪行為と匿名性維持の関係については今後も様々な議論が続けられそうだ。
しかしながら、国家統制の通貨が持つ(隠された)不安定性と将来保証の不確かさは、仮想通貨との比較において次第に浸透し、利用者全員による非中央集権的通貨の価値を認識する投資家も無くなることはないと、各通貨のコミュニティは確信している様だ。

非中央集権的通貨のメリット

特定の管理者がない非中央集権的通貨は、価値の保証もなく機関の裏付けもない不安定性があることは誰もが認めている。
では、こうした非中央集権的通貨のメリットは何だろうか?

前述した、インフレや国家統制による切り下げ等の弊害が及ばないこと以外にも下記の様ないくつかの利点があげられている。

  • オープンパラメータ、パラメータを独占しない(非独占化)・・・競合企業間でもパラメータ共有して、相互運用性を高め、共通のアカウントやデータでも、異なる通貨利用アプリケーション間での利用が容易になること。
  • 各種データや様々なアカウントが共通化されることで、関連分野でのイノベーションが、より効率的に開発促進が可能となること。
  • 素早い決済手段と匿名性等が、今後進展が予想されるシェアリングエコノミーの実現に重要なツールであること。

「シェアリングエコノミー共通基盤」のイメージ

「シェアリングエコノミー共通基盤」のイメージ
(画像参照元:tis.co.jp

これからの通貨と金融

非中央集権的通貨としての仮想通貨の思想は、国家や中央銀行に否定され、デジタル通貨としての利便性を持った既存システム上の通貨のみが流通することになる可能性もあるだろう。
しかし、ビットコインで明確に示された「特定の権威・機関に支配されない自由な通貨」の流通が、金融システムにとって最も効率的かもしれないという思想自体は消えることがないと思われる。

こうした利便性や効率性について、各方面に色々な視点や考え方があり、これからも様々な観点から議論されると思われる。
だが、事実上ビットコインから始まった「非中央集権的通貨」という思想は、通貨の歴史と未来の金融システムにとって、今後も大きな意味を持ち続けるのではないかと、考えている。

このコラムの執筆者

和気 厚至
和気 厚至

慶應義塾大学卒業後、損害共済・民間損保で長年勤務し、資金運用担当者や決済責任者等で10年以上数百億円に及ぶ法人資産の単独資金運用(最終決裁)等を行っていた。現在は、ゲームシナリオ作成や、生命科学研究、バンド活動、天体観測、登山等の趣味を行いつつ、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れた株式・為替・債券・仮想通貨等での資産運用を行い、日々実益を出している。


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