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金融立国スイスが進める仮想通貨事業支援とその背景

スイスは、ヨーロッパ諸国内で一番の仮想通貨先進国と言われている。
国境のない仮想通貨ではあるが、ビットコインに次ぐ時価総額を持つイーサリアム(ETH)の発案者ブテリンが2014年に非営利組織の「Ethereum Foundation(イーサリアム財団)」を立ち上げたのがスイスだったのは有名な話だ。

スイスは、国家として仮想通貨関連の営利企業等の保護や推進姿勢を見せている。
今後の仮想通貨市場等を占う上で重要なポイントとなりそうなICO等への態度など、スイスにおける仮想通貨の取り組み・利用状況や、将来的な仮想通貨のこれからを考えてみたい。

金融立国スイスの新国家戦略

永世中立国スイスは、EUに加盟せず政治経済に独自システムを有し、スイスフランは日本円と並んで、従来から安定性が高い通貨として評価されている。(預金金利は低水準)

かつて(21世紀初頭まで)は、不正蓄財や課税回避を望む資産家などに匿名預金口座を提供し、マネーロンダリング関与も含め、国内口座(金融資産)に疑惑の目が向けられていた。
だが、事実上世界金融の中心だったスイスへの巨額資金集中に対する不快感もあり、米国・EU諸国などが圧力をかけた。

そのため、スイス国内の不正口座閉鎖や口座の守秘義務の一部解除など、マネーロンダリングや不正蓄財支援国としての悪評を払拭する動きが起こり、悪評高い「スイス銀行法(中世以来銀行顧客の秘密保持を規定)」も、2009年のUBS脱税等にかかる米国からの高額損害補償支出(数十億ドル規模)を契機に一部修正された。
結果、国内預金残高減少と営業銀行縮小(約2割減)が起きたと言われている。(秘密預金の規模・残高推移の公表はないが、2015年の為替介入方針転換によるスイスフラン暴落【スイスフランショック】にも影響があったらしい。【明確な因果関係は不明】)

こうした変化から、スイスの金融立国政策にも方向転換が迫られ浮上してきたのが、仮想通貨重視姿勢の様だ。
仮想通貨の中では最もコミュニティー組織が整備されていると言われるイーサリアムを含め、スイス(主にツーク州)に関連する主要通貨はShapeShift、Xapo、Tezos、Melonport、Monetas等数多い。
また、2017年のICO案件(Initial Coin Offering)金額上位10件中の4件がスイスで行われている。

スイスの仮想通貨支援とICO推進

永年スイスは、金融競争力を持ち、金融機関勤労者のレベルや事業効率が高いことも認められていた。だが、かつての高い金融支配力を失い、仮想通貨関連事業に傾斜し始めている。
その中でも、ICOビジネスには最も際立った動きが見える。
ICOに特化した法律事務所「MME」や、既に約700億円以上のICOに関与した「Bitcoin Suisse」などの事業が政府支援を受けており、ビットコインやイーサリアム利用の複数サービスや公的利用も始まっている。

スイスの金融市場監督局(FINMA)は、「クリプト・バレー協会(CVA;Crypto Valley Association)」と協調しており、中でもZug(ツーク)」州はスイスの26の州中、特に仮想通貨の受け入れ等が進んでいる。
同協会の公式ページには「CVAは、『枢要な汎用的ブロックチェーン技術』と『仮想通貨技術による金融市場体系の確立』に関し、スイスの持つ利点を最大限に利用し推進することを目的として設立された独立組織で、政府から正式な支援を受けて世界中の同様な組織等とのアクティブ連携で、グローバルな技術革新の協会参加も保証される」とある。(CVAの公式サイトから要約引用。)

FINMAは2018年2月に、国内の金融市場規制法についてICO規制に関するガイドラインを発表し、ブロックチェーン技術の普及推進と、ICOに対する好意的な視点がその姿勢に見られる。
このガイドラインでは、ICO発行のトークンを「決済」「ユーティリティ」「資産」の3カテゴリーのトークンに分類し、ICOの透明性を重視している。

背景には、ICO市場のポテンシャル・高い需要への認識があると見られる。
FINMAのCEOもプレス取材に「ICOに対するバランスの取れたアプローチであれば、正規のイノベーターが投資保護関連法と金融システムの健全性に合致した形でICOプロジェクト推進ができる」と述べ、他国、特に国内ICO全面禁止の中国とは対照的だ。

「ICOの内容は多種多様であり、我々が一様に規制することはできないが、同時に野放しにもできない」と述べ、マネーロンダリングとテロリズムの助長について、規制の“正当性”を強調しながらも「金融市場において、スイスの法律は原則として“技術の中立性”を優先している」とし「返済義務付けや法的な支払手段の明示が無く、(ICOの)流通市場が存在しないなら、そのICO発行は寄付と変わらない(下線筆者)ため、『資金の監視・監督』の観点からは規制できない」とも表明している。

ただ、「ICO実施の方法次第によっては、いくつかの部分は既存の法律の“規制対象”となる可能性がある」とも付言している。
当局は、ICOについては前述のCVAによる事例(2017年9月発行のトークン)を「投資家に対してコンプライアンスを明確にし、適切な説明と投資家の理解を得る必要性をしっかりと認識しているのであれば何も問題はない。我々は『イノベーションを促進させる起業家』を歓迎する」としてこの事例をICOの模範事例としている。
(参照 Bitcoin News「スイスFINMAの【Crypto-Valley】への視点」より)

スイス「ツーク州」のICO推進

前述のリポートで「仮想通貨は既にツークの文化の一部と言えるほどの存在で、米シリコンバレーにおけるITの様に、地方を象徴する存在と言える」と述べている。

ツーク州はスイスで最小の州(人口約12万人)だが、税率が低く在住者の生活水準は高い。美しいアルプスの眺望が素晴らしい州都ツークには、狭い地域(13㎞平米)に市民26千人の25%もの外国人(世界127カ国)が居住する。

法人登記している企業数が3万社以上あるが、その大半が金融関連企業で、直近10年間に仮想通貨発行とそのコミュニティーおよびスタートアップ企業等がツーク州を仮想通貨業界の重要地点とする施策に協力し、関連企業数が急増した。
たが、地元行政当局は地元産業のためにこの傾向を歓迎する半面、メディア報道や規制方針に関する米国等の反発などのネガティブな反応について一抹の不安を覚えている。

エコノミストAvi Mizrahiは「スイス金融当局は、仮想通貨産業のこれまでの成功にも関わらず、関連ビジネスの集結地で『仮想通貨の谷』とも呼ばれるツークが、『危険なICOの地』との報道(FT誌による)で評判が下がり、望まぬ関心が高まるのを懸念している」と述べている。
スイスの財政専門家によれば「ワシントン(米当局)からベルン(スイス当局)に『ツークの詐欺行為』について問い質す可能性もある」という。

しかし、地域関係者は「ICOは銀行(スイスの闇口座取引)とは異なり、ロビンフッド(正義の味方)である。干渉はしない」と言う。ツーク州の「緑の党」評議員であるアンドレアスヒューリマンも「大変心配なのは、仮想通貨関連事業全体に関する不透明性がツークの国際的な評価を下げることだ」と述べ、「例えば、それ(ICO)が麻薬資金であるかどうかに関わらず、人々の知らない所でお金が流れていることが、ICO資金払い込みが『市販の猿轡(=オープン購入可能な秘密資金)』の購入と思われてしまう」と述べている。

ツーク地域の法規制の枠組は、米国等の圧力に対し手続き規定の高度化等で対処し、「スイスは『クリーンなお金』戦略(過去のブラックマネー取り扱い国への批判)への警鐘に留意し」過去のブラックリスト(金融不正国)除外作業は過酷な試練だったので、その過去を繰り返す意思はないとしている。

「これらのICOには発行者への全面的な信頼が必要で、もし集められた資金が(私的に)使い込まれたら(ICOで)継続的に資金を調達することは出来ない」というのが当局者の考えだ。
仮想通貨関連の起業家はこの地域の政治・規制に満足しており、FT誌のリポートでは協力銀行等の金融機関がリヒテンシュタイン等他の場所に変ってしまうリスクを避けるために、不本意ながら一部規制にも協力姿勢を示していると言われている。
Swiss Officials Fear ICOs Will Tarnish Reputation of ‘Crypto Valley’ Zug – Bitcoin News

スイスでの仮想通貨利用

スイスの国有鉄道にあたる連邦鉄道(SBB)は、2016年から国内の駅券売機でビットコインが購入できるサービスの試験導入を開始するなど、仮想通貨実利用に関する先進的事例が多い。

対応券売機では、20スイスフランから500スイスフラン(日本円で約55,000円が上限)までビットコインが購入できる。(ビットコインでのチケット直接購入は出来ない)。
これらの動きの中でも、ツーク州の取り組みは際立っている。ツーク州では、行政サービスでも、イーサリアムのアドレスにリンクしたID(暗号化された住民の個人情報)を取得し、連携したアプリによって州政府のサービスを利用できる。(市民情報の認証は市職員が行う)

利用アプリは、イーサリアムのコミュニティーである「ConsenSys」の個人情報認証プラットフォーム「UPORT」を使用している。このUPORTは電子署名や駐車料金支払い等のサービスにも利用可能で、テスト的なものだが議員等の電子投票も進んでいる。

州政府の責任者は「アプリ利用の全ての局面で電子IDが必須とされるべきで、これをブロックチェーンで実現したい」と語っている。
また、前述のように仮想通貨関連新興企業誘致も、元スイス・ユニオン銀行 CEOらによって2017年にはトムソン・ロイターやPWC等著名な関連団体で共同企業体を設立し、起業への積極的な推進に加え、仮想通貨投資規制に関する方針も含めた取り組みや関連イベント開催・情報発信等を行っている。

仮想通貨・イーサリアムとスイスの現状

カナダ人ヴィタリッタ・ブテリンが考案したイーサリアムは、ビットコインを越える良質なプラットフォームを目的としており、その決済プラットフォームは、銀行を経由せずに決済出来る。

そもそもイーサリアムは、「イーサリアムプロジェクト」という計画プラットフォームの名称で、この計画の仮想通貨がETHだ。
イーサリアムは通貨以外の様々な用途に応用可能で、世界的金融持株会社UBSの「Madrec」プロジェクトは、欧米主力銀行のバークレイズ、クレディスイストムソン・ロイター等も参加しており、イーサリアムの優れたデータ照合等の技術による業務簡素化を進める計画で、スイスではビットコインと並んでイーサリアムの流通・利用が進んでいる。

イーサリアムは、こうしたスイスの先進的な事例やイーサリアム財団(ETH FOUNDATION)の活動などから、着実にビジネスシーンに拡がって行きそうだ。(大手金融機関でもイーサリアムが持つブロックチェーン技術の利用が進む見込み)
イーサリアムの通貨価値も、流出事故等にも関わらず、進行中のメトロポリスアップデート(取引承認や投票機能等プラットフォームの改良)に対する期待もあって、底堅い動きを示している。

スイスでは、2018年4月にスイス中央銀行(SNB)メクラー理事が「民間発行の仮想通貨は、中央銀行が発行する法定デジタル通貨(CBDC)よりも優位性があり、政府が仮想通貨を発行すれば銀行の取り付け騒ぎの可能性が高くなる」とメディアに発言し、さらに「中銀発行のデジタル通貨は、キャッシュレス決済に必須ではなく、金融安定に計算外のリスクをもたらす可能性がある」と述べた。
これは、インドや中国等、他国の中央銀行にCBDC発行検討の動きがあるのとは対照的だ。

金融革命と仮想通貨の未来

これまで見てきたスイス、特にそのごく一部でしかないツーク州の事例は、まだ世界的な仮想通貨の取り組みの趨勢であるとは到底言えないだろう。
だが、政府及び金融機関を含むスイスの動きの根底にある考えは、スイスの持つ金融立国に関する様々なノウハウ等の蓄積も考えると、これからの仮想通貨を巡る動きに大きな影響を与えるかも知れない。
イーサリアムの展開戦略や通貨の動きとも併せ、これからも関連する注目トピックがあれば紹介したい。

このコラムの執筆者

和気 厚至
和気 厚至

慶應義塾大学卒業後、損害共済・民間損保で長年勤務し、資金運用担当者や決済責任者等で10年以上数百億円に及ぶ法人資産の単独資金運用(最終決裁)等を行っていた。現在は、ゲームシナリオ作成や、生命科学研究、バンド活動、天体観測、登山等の趣味を行いつつ、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れた株式・為替・債券・仮想通貨等での資産運用を行い、日々実益を出している。


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