新時代を拓く企業の「ダーウィンポートフォリオ」で明日の投資戦略を組み立てる

リスクのオン・オフを繰り返す株式市場には国内外の政治情勢も相変わらず不安定で、なかなかこれからの相場の柱となる様なテーマが見えてこない状況が続いている。
北朝鮮リスク解消への期待やトランプリスクや安倍政権への不安、為替相場の方向性等を相場予測にすべて正確に織り込むことは難しい。

そこで、こんな時こそ次世代の変化に期待して、新時代への投資戦略も考えてみたいと思う。そんな試みの一つとして、最近話題となっているダーウィン【※】関連企業への投資戦略を考えてみた。

  • 【※】DARWINとは「D=ビジネスデジタル化」、「A=AI」、「R=ロボット」、「W=無線」、「I=IoT」、「N=次世代イノベーション」の頭文字。

明日の経済テーマは何か

将来予測が非常に難しい時代になっている。
IoTやAI普及に関連し、経済を動かす基幹技術の大きな変化が多方面で進行中であり、その影響範囲や効果も未知の関連分野を多く含むところから、変化の影響によるイノベーションやその範囲等の見通しも分かれる。
未来予測が難しく、正確に言えば正しく予測し判断するのが難しい時代なのかも知れない。

変化に対応出来るダーウィン(DARWIN) 企業

進化論で知られる人類学者チャールズ・ダーウィンは「(進化で)生き残る唯一の道は変化できるものだけ」という言葉を残した。
この言葉を意識して作られた造語「DARWIN(ダーウィン)」は、「デジタル化」の【D】、「AI;人工知能」の【A】、「ロボット」の【R】、「ワイヤレス」の【W】、「IoT」の【I】 、「次世代【next】イノベーション」の【N】の組み合わせだ。

日々進化する企業環境やテクノロジー、トレンド変化等に対応して企業が生き残るためには、変化への対応力が必要という考えがその中心にある。
「DARWIN」という言葉は、ソフトバンクグループ[9984]の開催した「Softbank World 2017」で公表され、この5つの技術がIT戦略上の重要ポイントと位置付けられた。
ここでは、6つの技術それぞれに関連しそうな事業範囲や環境等の変化に対応し進化できそうな企業を取り上げた。

【D】=Digitalization

デジタル化進展の言葉による変革に、最も相応しいのはRPA導入関連だろう。
IT活用の新しいビジネスモデルとして、働き方の構造改革をもたらす新技術は既に多くの企業が導入開始や事業適用の検討に入っているが、今後もさらに加速しそうだ。
[macth url=”http://clip.money-book.jp/entry/2017/08/18/165052″]

先行した金融業界以外にも、動きが広まっている。
2017年秋の調査では導入企業は2割以下だった。AI、特にディープラーニング技術の実装製品が少なく、期待効果には準備期間と投資が必要だったことが普及を遅らせていた様だ。
しかし、メガバンク等金融機関の積極導入報道を受け、電子機器等のメーカー、エンタテイメント等のサービス業、商社等の小売業を中心に2018年は前年末の倍以上の導入が見込まれている。
RPA導入企業の半数近くが業務の完全自動化を実現

本格導入期に入ったRPAでは、9割以上の企業が業務行程削減に成功したと言われており、導入加速期に入った電子機器メーカーの収益構造の変化や、効果が大きいとされながら導入が進んでいない建設業等の今後の推移に注目したい。
直接のRPA関連銘柄としては、人材関係のソリューションとしてRPA導入を支援するパソナグループ[2168]や、RPAソフト販売関連で先行する米オートメーション・エニウェア販売のTIS[3626]は金融ITサービスにも強みを持つ。
また、伊藤忠テクノソリューションズ [4739]、JFEシステムズ[4832]、システムソフト[7527]等も、米国の人気RPA製品「UiPath」を取り扱っており関連銘柄として注目だ。

【A】=AI

AIの普及は今後全産業に及ぶと考えられるが、進化する企業という観点からは事務作業の代替業務、コールセンター等の定型的な判断業務遂行業務や、医療での画像診断事業等に加え、実用化は遠いと思われていた事業分野にも注目したい。

具体的には、法務や税務等人間のノウハウ蓄積と助言機能が必須と思われる分野、例えばこれらを総合的に扱う経営コンサルティング会社だ。
これら業務は、高度な人材の(優雅な?)頭脳労働の印象があるが、実体は労働集約型のきついビジネスで、資料調べやとりまとめ等にかなりの実質労働時間を要する業務だ。
コストの大半がコンサルタントの人件費(従業員の9割近くがコンサルタントという企業もある)で、常に高稼働率と収益性の高い業務受託を維持しない限り、業績低下のおそれがある。

マザーズのFRONTEO[2158]は、法的訴訟時の証拠保全等電子データ収集、分析等コンピュータ解析事業を行う企業で、最近AI活用事業に力を入れており、業界のAI活用をリードして業績を伸ばす可能性を持つ。

シグマシス[6088]は三菱商事系のシステム導入サポート等の企業だが、規模が小さく景気動向に左右されやすい弱みをAI活用によって高い人件費率の改善が出来れば、大幅な収益改善の可能性がある。

PKSHA Technology[3993]は、NTTドコモ[9437]やトヨタ自動車[7203]の出資企業であり、言語解析や画像認識のアルゴリズム開発が注目される企業で、AI性能の高度化による恩恵を受けそうだ。

【R】=Robot

日本人口減少問題から注目のロボット関連事業だが、すでに取り組みが具体化している省人化や業務の自動化以外に大きな流れが生まれそうなのが、新たなロボット分野への展開だ。
AIやIoTとの連携による観光案内ロボットや、すでに医療認可の進む介護用ロボットの利用範囲拡大、肉体労働ではあるが単純作業ではない農作業等の分野や家庭での家事支援などにも期待したい。

農業では、航空機向け動力供給企業のAGP[9377]が、航空機向け温度調節ノウハウ等を活用し、低カリウムレタス工場を建設し出荷を開始している。
農作物生産の採算性向上に欠かせない温度・湿度管理や蒔種・収穫時期等の熟練農家のノウハウを組み入れたロボットの高度利用による全自動農業工場に期待したい。

大和ハウス工業[1925]やパナソニック[6752]等、大手企業も農作物工場ビジネス参入が続いているが、鍵となるのはやはり高度な知的作業であり、熟練農家の技である高収益率の農作物生産を如何に実現するかが収益向上の課題で、逆に進化が期待される事業分野でもある。

医療用ロボットでは、米国等で認可を受け、今後の販売増が期待される高い技術力を有するサイバーダイン[7779]だが、定評のある介護支援ロボット技術が、農業・建設等の産業分野や、家事支援への展開があれば、企業の可能性も大きく広がるだろう。

【W】=Wireless

通信の進化は、やはり5G(次世代無線通信)規格導入による次世代ネットワークが動因だろう。
高信頼性・低遅延、大量端末の接続、高速・大容量化した通信方式への移行で、AI・IoTに連携した無線提供サービスメニューが飛躍的に豊富となる。
5G通信とIoT化は、自動車・家電、ウエァラブル機器等に加え、ロボット利用でも機器相互の通信ネットワークやクラウド収集の膨大な情報の管理・自動制御が期待されている。
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ただし、5G 通信の普及は同時に、社会インフラや各種センサへの侵入によるデータ漏えいや集中的なサイバー攻撃への防御がこれまでより重要度も飛躍的に増加すると思われる。
このため、関連する高度なセキュリティ対策事業も、5G進展に続いて脚光を浴びそうだ。

KDDI[9433]出資で、セキュリティの脆弱性診断等のサービスを企業に提供するラック[3857]やKDDIテクノロジー、産業用センサのオプテックスG[6914]などのセンサ関連事業の可能性に注目している。

【I】=IoT

IoTの普及も既にかなり多くの分野で注目が高まっている。 あらゆる機器や設備が多種・多量の情報をウェブに集め、メーカーでは生産性向上、サービス業や家庭ではより進んだ利便性等に役立つと期待されている。
ここでも、普及本格後に業績変化が注目されるセンサ技術関連株に注目したい。
IoT利用には各種センサが大量に必要であり、低消費電力、小型化・低価格化が必須となる。
[macth url=”http://clip.money-book.jp/entry/2017/10/24/120339″]

電子部品大手のアルプス電気[6770]は、各種MEMS型センサと通信モジュールの複合化小型センサモジュールを手掛けており、センサ高度化時代の注目企業だ。
ガス警報器等の製造・販売企業の新コスモス電機[6824]は、MEMS空気質センサやNDIR式小型CO2センサ等のガスセンサに独自技術を持つ「フィガロ技研」を子会社化し、両社の技術融合により、将来的にガス検知を越える各種応用商品等への幅広い展開が期待される。

【N】=Next Innovation

次世代イノベーションという言葉でとりわけ注目したいのが、ブロックチェーンを活用したフィンテックへの応用事業だ。
ブッロックチェーンと言えばビットコイン等の仮想通貨だが、関連事業者規制強化や相場状況により関連する事業展開の動きには今後の進展について不透明な部分も残る。
しかしながら、ブロックチェーン技術にはフィンテックにおける分散型ネットワークの利用など、多くの事業応用が検討されている。
非中央集権的ネットワーク利用には、分散した多くのノードが必要となること、中央主権的なブロックチェーンにおけるセキュリティ確保など、実務への適用には多くの課題があるが、関連企業も多い。

最近仮想通貨取引所コインチェック買収を発表したマネックスグループ[8698]は既に人気だが、多くの関連技術者を傘下におさめる利点は今後もこの分野で大きな力を持ちそうだ。
同様に、優秀なIT技術者を先行して採用し、高い技術力で評価されているマネーフォワード[3994]のブロックチェーン関連事業への展開の可能性やフィンテック利用本格化で、自社人材に大量のIT技術者を持つNTTデータ[9613]も、大きな注目を浴びるだろう。
但し、前述のようにブロックチェーン技術のフィンテック関連業務への応用は、セキュリティ(小規模チェーンの不安定性等)等にまだ多くの課題があり、取り組みの噂だけで動くのではなく、事業としての実態や実現可能性にも留意したい。

消費者マインドをつかんだポートフォリオの難しさ

「生産マインド」が死語に近く、今や経済は消費マインドが動かしており、経済先行きが見えにくい。逆説的に言えば、消費者マインドをつかんだ企業こそ、時代をリードする資格があるのだろう。

長期分散投資が安定的な資産の成長を生むと言うことはよく言われるが、実際に各業種バランス良くポートフォリオを構成することはプロにも難しく、また現時点でバランスの良い企業群でも事業環境変化で低迷する可能性もあり、将来にわたって意図した様な分散投資効果を生むかどうかの判断が難しい。

一方で、成長株に目を向けた投資は、目先の好調分野に比重を置いた企業選択になりがちで、結果としてバランスの良い分散投資にはならない場合も多い。
成長株投資のパフォーマンスは魅力で、次世代の消費者マインドを予測したポートフォリオの有効性は高いと思われるが、冒頭に述べた様に未来予測は非常に難しく、実際に将来成功確実な銘柄のポートフォリオ構成は困難だ。

攻めの分散投資としてのダーウィンポートフォリオ

そこで、提案したいのが前述のDARWIN企業に投資する「ダーウィンポートフォリオ」だ。
次世代のニーズを先取りしたDARWIN銘柄には、現段階で将来価値を裏付けるデータは少なく、可能性に着目するしかないが、上記の企業は一例にすぎない。
他の数多くのDARWINに関連した展開が予想される企業が多く、こうした将来への可能性への投資は、一般の成長株以上に難しい“次世代の成長株”投資となる。

PERやPBRはもちろん、利益率やEPS等の指標にも頼りにくいが、例えば該当事業の市場占有率(予測)や経営マインド、デザインセンスなど様々な角度や情報から投資企業を選択し、ポートフォリオを構成後は新たなビジネスチャンスに向けて各企業が進化する時をじっくり待ちたい。

最後に、NY取引上場企業の外国株だが、アクセンチュアにも注目している
アイルランドの経営コンサルティング企業で、業界に特化した経営コンサルティングや各種技術サービスを世界中で展開する優良企業だが、高い技術サービス能力でITインフラやセキュリティ等の導入にも実績を持ち、AIの利用によって業界の淘汰が起こった場合にも力を維持できそうな実力を持っている。

執筆者

和気 厚至
和気 厚至

慶應義塾大学卒業後、損害共済・民間損保で長年勤務し、資金運用担当者や決済責任者等で10年以上数百億円に及ぶ法人資産の単独資金運用(最終決裁)等を行っていた。現在は、ゲームシナリオ作成や、生命科学研究、バンド活動、天体観測、登山等の趣味を行いつつ、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れた株式・為替・債券・仮想通貨等での資産運用を行い、日々実益を出している。


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