節分天井、彼岸底 大荒れの株式市場は底打ちとなったか?

NY市場の急落から調整が続いていた日本株だが、3月に入ってようやく戻り歩調を見せている。為替相場や米保護貿易政策等日本株にとって心配材料もあるが、米朝首脳会談や堅調な雇用統計数値など、相場の追い風となりそうな要素も増えた。
日本株の相場は、底入れから再び好調な業績を反映した上昇基調に戻るのだろうか。
強弱入り混じる材料を整理しながら、相場の先行きを考えてみたい。

2018年初の日本株式市場

久々に年初から株高となり、月間でプラスとなった1月相場に比べ、2月に入ると米国雇用統計後のドル安とVIX指数の急上昇から始まったNY市場の急落が日本株相場を完全に冷やし、その後の戻り局面でも高値をほぼ回復したナスダックや、半値戻しは早々に達成出来たダウ平均等の米国相場に比べて戻りがかなり鈍かった。

しかし、NY市場の動向に加え、ドル安傾向一服と米朝首脳会談実施のニュースで日本株もようやく下落基調は止まった模様だ。
さらに雇用統計の結果などを受けて、今後の上昇を予測する声も多くなっている。(2018年2月に発表された米国1月雇用統計では、非農業部門雇用者数が31万3千人と大幅な増加となり、失業率は4.1%と引き続き完全雇用に近い低水準、平均時給は2.6%で寒波の影響があった1月に比べ低下し従来水準に戻った)
だが、最近の日本株式指数や個別銘柄のチャートには、前日比で値上がりとなっても終値が始値より低い「陰線」が目立ち、まだ力強い回復相場ではない見方もある。

節分天井彼岸底のアノマリー

「節分天井、彼岸底」とは、2月初旬の節分のころに高値を付けて3月下旬のお彼岸に安値をつけるというアノマリーを示す格言で古くからある相場格言だが、最近では様々な理由から年初に下落傾向となることが多く、当たらない格言だとも言われる。

節分天井彼岸底の格言は、江戸時代の米相場から生まれた。新年相場へのご祝儀気分で庶民の財布の紐も緩みがちなため、米相場が上昇したことから作られた。
立春の頃は、旧暦では12月19日頃にあたり、新春(旧歴の正月)準備で、少々値段が高くなっても無理する見栄っ張りの江戸っ子気質から、おせち材料に加え、米価も高くなったらしい。
一転して彼岸近くになれば、新年気分はすっかり消え、生活必需品を安く買いたいとの倹約意識が高まって需要が急減し、米相場は価格が底値に近付くことから作られた格言だ。

株式市場にも似たような状況が存在していた。
年初には、給与所得者のボーナス等の新規資金が株式市場に流入しやすく、上場企業も決算期を控え、2月中の決算見込・新年度計画の発表が多く、株価上昇期待も高まりやすい。
だが、3月にはほぼ材料出尽くしとなるとともに、機関投資家等の決算を意識した利益確定売りが集中し、下落することが多かった。

最近この傾向が薄まってきた理由は、四半期決算発表と12月末決算企業の増加により、7割近くあった3月末決算企業の割合が低下傾向にあることだ。
海外では12月決算の会社が多いため、海外親会社・子会社との決算日統一、連結決算の利便性等から、海外に親会社を持つ外資系企業や海外子会社の多い輸出企業に12月末決算企業が増加している。

また、四半期決算発表が導入され、1月下旬から2月中旬が決算発表シーズンとなったことから、年初に見られた「ご祝儀相場」がほぼ見られなくなった。ただ、節分天井、彼岸底の日程というよりも、期末取引との日柄調整的な要素は残っているかも知れない。

最近の為替相場と株価の動き

しかし2018年度に限っては、この格言が当てはまりそうな状況になっている。
丁度節分頃に直近高値をつけ、3月は調整局面が続き、今後二番底に向かえば、「彼岸底」の形になるかも知れない。

2月に入ってからの日本株安の要因であるドル安傾向については、米長期金利上昇や雇用統計等様々な理由はあげられているが、経験則と合致しない事項も多く、今の所はっきりした円高理由は出ていない。(これからもドル安が続く可能性がある)
今回のドル安/円高は、米レパトリ減税に伴う日本企業も含めた資金の動き(ドル売り円還流)を予測した仕掛け的なドル売りではなかったかという見方が今の所有力だ。
但し、日本企業以外にも中国等外貨準備動向には米債券売り、日本債券買いというドル安要因も見られるため、為替の予測が難しい状況は変わっていない。

仮にドル安の主要因が短期的な値幅取りの動きであれば、これまで同様の局面では5円程度の動きでおおむねトレンドが反転するという過去の経験則が当てはまるかも知れない。
この場合、1ドル110円がスタートラインとすれば105円が転換点となり、既に反転の動きは始まっているという観測もある。(日本企業にドル売り需要があっても、105円台の取り組みが厚く円高要因としては限定的と思われる)

また、仮に108円からの波動が仕掛け的な動きの端緒だとしても、ドル下値は103円が当面のドル/円の転換点(円高の限界)となり、その後はドル高に向かう可能性が高い。(但し、今回のドル安原因がはっきりしておらず、1ドル100円割れのリスクが消えたわけではない)

いずれにしても、日本株の動きに円高傾向が買いの勢いを阻害する局面も勿論あったが、相関関係は以前よりは弱くなっている。
しかし、日本株に関する不透明要素も依然として多く、低調な出来高や前述のような弱い値動きから、はっきりした上昇局面に入ったとの見方はまだ少ない。
外国勢の売りも8週連続で続いており、米国株に比べると小型株が買われる傾向が強く、成長株投資が年初の上昇局面程には膨らんでいない(リスク回避傾向)などから、株価上昇に力強さがあまりみられない。

今後、株式市場を動かす要素

最近は市場を揺るがすニュースが多く、相場の見通しをつけにくくしている要因でもある。

主要な日本株相場上昇要因

  • 米朝首脳会談実施による東アジアの地政学リスク軽減
  • TPP11の署名(今後の発効と米国復帰の動き)
  • ドイツ政権協議がまとまり、与党勢力は全体として新欧州的姿勢
  • 良好な米雇用統計(時間当たり賃金は変化がなく、心配された賃金上昇は一時的な要因と見られる)
  • フィラデルフィア半導体動向指数の上昇(半導体設備投資の増勢)
  • 好調なIT系企業を中心とした米ナスダック指数の上昇
  • 来期の企業業績(日欧米)は引き続きの増益予測

相場下押し要因(不安要素)

  • トランプ政権の保護貿易姿勢(ゲーリー・コーンNEC議長辞任)による貿易縮小と世界経済拡大の停滞(米議会の反対姿勢もあり先行き不透明ではある)
  • 森友問題の長期化と国会運営、国政等への影響懸念
  • 米欧の出口戦略進展による世界的な資金余剰の転換(但し直近のECBの姿勢は、量的緩和拡大の可能性を排除しつつ、現行の資産圧縮規模を据え置きとし、大きなインパクトはなかった)と若干のユーロ安に加えドイツ等に見られる人件費増加傾向
  • 金融引き締め派の独連銀総裁へのECB議長交代予測(2019年)
  • 停滞気味の日本国内需要(原油や人件費高騰等によるコスト高等)
  • トレンドが見極めにくい円相場(現段階では企業の平均想定レートを上回る円高傾向)

相場底打ちはいつか

米朝首脳会談の成否は最終的には5月以降となる見込みであり、鉄・アルミの追加関税措置についても与党共和党内の反対が多かったが、8日には大統領令が署名された。(但し、貿易戦争等に関する発言内容は若干のトーンダウン)
 
今後の日本株については、期末要因で当面上下どちらかに動いても、その後の相場は上記未確定要因に加え、米インフラ投資政策の動向もあって大きな上下変動可能性もあり、相変わらず米国市場の動向次第で変化する傾向が続きそうだ。このため、全体として2月に大きく崩れた株式相場の修復には時間がかかり、5月頃までははっきりした上昇トレンドは見えないかも知れない。
勿論、今後の米朝協議進展等の大きな材料で、早めに急回復する可能性がないわけではないが、一般的には相場調整(日柄調整)時の経験則から再び上値を追うようなトレンドに復調するには半年程度の期間がかかると見られている。

弱気な見通しとしては、2018年度の企業業績の好調さが決算発表で、はっきり示されるまで(過去の傾向から見ると概ね11月の第二四半期決算見込み発表以降)大きな上昇曲面がない可能性もある。
ただ、中長期的な要因として、日本を含む長期資金の運用難から投資資金が余剰気味な傾向であることはさして変わっておらず、大きな下押し局面では個人投資家や年金資金等の押し目買いも続きそうなため、日経平均が2万円を割り込む可能性は少ないが、年間の大きなトレンドが読みにくい局面が当面続くかも知れない。

2018年以降に株式相場はどう動くか

では、もう少し先の2018年以降の日本株の相場はどうなるだろう。
米国長期債券の予想外の金利上昇(価格低下)で直ちにドル安が始まったのは象徴的な出来事だった。
過去の米国債の金利水準からみても、特段高いレベルの金利水準ではないにも関わらず、ドル安に動いたことは、金融市場において長期間続いた金融緩和での出口の影響について市場がかなり神経質になっていることが伺われる。

こうしたことから、今後の日本経済にとって懸念されることは、日銀の国債買い入れ縮小・停止の場合(現状のままなら起きる可能性が高い)に起こると思われる日本国債の金利上昇(価格低下)傾向がはっきりした場合だ。保有資産の損失拡大防止のため、国内金融機関等は大量に保有する保有債券の売却に動く可能性が高い。
この場合、適切な対策(思い切った財政改革等)がない限り、急激な金利上昇と為替の乱高下は避けられない。

また、金融機関の保有資産の評価損拡大の影響もあり、経済への影響は大きい。
こうした事態が2018年中に起こると言う観測は少ないが(その時期は現段階では見極め難い)、最近の米国株急落の場合のように、はっきりした悪材料ではなくても好業績を背景にした株高について反落の危険性を感じた場合の反応は極端なものになる可能性があり、日銀の金融緩和姿勢が判明すれば大きな悪材料になりかねない。

世界経済についても、中長期的に中国がこれまでの様な成長エンジンとなり続けることは困難と思われ、インドやその他の新興国経済等が急拡大して中国からけん引役を引き継がない限り、はっきり停滞入りする可能性もある。
こうした将来に発生する悪材料の可能性が明らかになっただけでも、即座に相場が崩れることもあるので、これからも変化の兆しには引き続き注意が必要だろう。

執筆者

和気 厚至
和気 厚至

慶應義塾大学卒業後、損害共済・民間損保で長年勤務し、資金運用担当者や決済責任者等で10年以上数百億円に及ぶ法人資産の単独資金運用(最終決裁)等を行っていた。現在は、ゲームシナリオ作成や、生命科学研究、バンド活動、天体観測、登山等の趣味を行いつつ、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れた株式・為替・債券・仮想通貨等での資産運用を行い、日々実益を出している。


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