予期せぬ病気やケガの味方。高額療養費の改正について

突然の病気やケガで医療機関にかかるも、請求される多額の医療費に先立つものがなくて不安に。

そんな状況を救う国の制度に、高額療養費があります。

いわば予期せぬ病気やケガの味方。

ところが、2017年に高額療養費制度が改正され、自己負担額が増大するという話があります。詳しく見ていきましょう。

1.現在の高額療養費制度

まず高額療養費制度とはなんでしょうか。

1カ月のあいだに高額な医療費が必要となった時の負担軽減を国から受けることができる公的医療制度のことです。

保険に加入している人(被保険者)の世帯(被保険者個人ではなく世帯)の所得金額と、かつ被保険者の年齢に対して、医療費が一定以上かかった場合に、一部が後から払い戻される制度です。

現役世代(~60歳)、70歳から75歳という様に区分され、異なる自己負担額が設定されています。

なお、この制度は当初自己負担した分を後から払い戻されるという印象がありますが、あらかじめ制度の利用を申請することで、当初から自己負担を抑えられる方法もあります。

その場合は、「限度額認定証」を受け取り、あらかじめ医療機関に提示します。

今回、高額療養費制度のうち2017年に変更されるのは後者の70歳から75歳の部分の自己負担額。

変更内容をお伝えする前に、まず現状の自己負担割合を見ていきましょう。

一般的な収入世帯である「ウ」の計算式が有名ですね。

表中の「多数該当」とは、一定数以上この制度を利用した場合の引き下げ条件のこと。

既に3回高額療養制度を利用しており、4回目の利用時に適用される限度額のことです。
通常より更に引き下げられます。

(1)被保険者が70歳未満の適用条件

所得区分1か月の自己負担額多数該当
ア 標準報酬月額83万以上
(報酬月額81万円以上―)
25万2600円+(総医療費-84万2千円)×1%14万100円
イ 標準報酬月額53万~79万
(報酬月額51万5千円以上81万円未満)
16万7400円+(総医療費-55万8千円)×1%9万3000円
ウ 標準報酬月額28万~50万
(報酬月額27万円以上51万5千円未満)
8万100円+(総医療費-26万7千円)×1%4万4400円
エ 標準報酬月額26万以下
(報酬月額27万円未満)
5万7600円4万4400円
オ 低所得者
:被保険者が市区町民税の非課税者等
3万5400円2万4600円

参考:全国健康保険協会(協会けんぽ)ホームページ

(2)被保険者が70歳以上75歳未満の適用条件

被保険者の所得区分自己負担限度額
外来(個人)外来・入院(世帯)
ア>現役並み所得者
(標準報酬月額28万円以上かつ高齢者受給者証の負担割合3割)
4万4400円8万100円+(総医療費-26万7千円)×1%
「多数該当4万4400円」
イ>一般所得者(ア・ウ以外)1万2000円4万4400円
ウ>低所得者①(※1)8,000円2万4600円
ウ>低取得者②(※2)1万5000円

※1 被保険者が市区町村民税の非課税者等
※2 被保険者とその扶養家族すべての方の収入から必要経費・控除額を除いたあとの所得がない方

2.2017年の法改正概要

現在の改正スケジュールでは、2017年の8月から2018年にかけて、主に「70歳以上の高額療養費」の自己負担率が増大することが確定しています。

いわば被保険者にとって医療費の負担が重くなるということです。

厳密な対象としては2016年末時点で、高額療養費制度の利用時に現役並み所得者の負担が一律で重くなることが決まっています。

●改正後の高額療養費 自己負担上限額 ※医療費総額100万円の場合

被保険者の所得区分自己負担限度額
外来(個人)外来・入院(世帯)
ア>現役並み所得者①
年収1160万円以上
25万4180円←4万4400円25万4180円←8万7430円

※計算式8万100円+(総医療費-26万7千円)×1%
「多数該当4万4400円」
ア>現役並み所得者②
年収770万円~1160万円
17万1820円←4万4400円17万1820円←8万7430円

※計算式8万100円+(総医療費-26万7千円)×1%
「多数該当4万4400円」
ア>現役並み所得者③
年収370万円~770万円
8万7430円←4万4400円8万7430円
イ>一般所得者(ア・ウ以外)2万4600円←1万2000円
(5万7600円になる案もあり)
5万7600円←4万4400円
ウ>低所得者①(※1)1万5000円←8,000円2万4600円据置
ウ>低取得者②(※2)1万円←8,000円1万5000円据置

出典:厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」

変更内容を見るとかなりの自己負担額増加です。

高齢者への負担増政策は、以前の後期高齢者医療制度の導入過程のように、強力な反発を招くことが予測されます。

ただ、そこまで予測できるような環境で、かつ時間的余裕も持たせず、政府はなぜこのような変更に踏み切ったのでしょうか。

その背景には、日本の持つ「社会保障費の増大」という喫緊の課題があります。

3.法改正の背景

平成25年度の日本の社会保障給付費は約110兆円と、国の財政を大きく圧迫しています。

社会保障費は現在保障を受ける高齢者世代に対してはもちろん、将来に高齢者世代となる現在の現役世代を保障するための財源としても活用しなければなりません。

この前提を踏まえ、今回の改正は、「現役世代とのバランスを保つため」が最大の理由といえます。

現在の70歳以上に対して手厚い保障を継続するのはとても大切です。

ただ、それを維持したがために、いわゆる皺寄せが負担増として現役世代にかかるのは、理想の形ではありません。

そこで、世代負担の均等化を目的として、今回の改正が行われたと考えられています。

注意すべきは、この改正案はまだ決定ではないこと。

つまり、今後さらに議論が詰められ、細かい年齢負担や要件がまとまっていく可能性があります。

また、後期高齢者制度の導入から今回の改正への一連の流れを見ていると今回の改正に限らず、今後高齢者の医療費をめぐる環境は、厳しくなっていくことは間違いないでしょう。

4.状況を反映したアドバイスを大切に

専門家の眼から見て、現在の高額療養費は使い勝手の良い制度です。

民間の生命保険(医療保険)の過剰な加入を抑制する効果もあり、我々ファイナンシャルプランナー(FP)も「高額療養費があれば民間の生命保険(医療保険)は不要」とアドバイスする状況でもありました。

ただ、今後は70歳以上の方に対するアドバイスとして、内容を変えていく必要があると思います。

高額療養費が老後生活で病気やケガに罹患したときに、頼れる制度であることは変わりません。

ただ、今後はこの制度の保障内容に軸足を置きながら、民間の医療保険も両立して考える必要があります。

最近は医療保険の保険料も以前より大幅に安くなっており、負担がそれほど高まるものではありません。

状況を見ながら、状況別の対策を組み立てていくことが大切です。

5.今回を期に「急な変化に対応できる力を」

医療費をはじめとした社会保障費は、国の財政を大きく圧迫しているという側面があります。

今回の高額療養費改正のように、今後は短いスパンで変更していく制度も増えていくことでしょう。

現役世代として長く頑張ってきた立場としては文句を言いたくなりますが、結論は変わりません。

ぐっと噛み締めて、変更後(改正後)の制度に対応したライフプランの組み立てを急ぐようにしましょう。

とはいっても、あきらかに不公平感のある改正には声をあげることも必要。

高齢者世代と若年者世代がお互いWinWinとなるのは難しいまでも、納得感を持てるような制度としていければいいですね。

自分たちが改正の影響を受ける当事者となった場合は繰り返しになりますが、対応したライフプランを組み立てることが対応力となり、もっとも家計に対する影響を少なくすることができると考えます。

最新の情報を取得して、まずは可能な範囲で対応していきましょう。

執筆者

工藤 崇
工藤 崇株式会社FP-MYS代表取締役社長兼CEO

ファイナンシャルプランニング(FP)を通じて、Fintech領域のリテラシーを上げたいとお考えの個人、FP領域を活用して、Fintechビジネスを開始、発展させたいとする法人のアドバイザーやプロダクトの受注を請け負っている。Fintechベンチャー集積拠点Finolab(フィノラボ)入居企業。FP関連の執筆実績多数。東京都千代田区丸の内。


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