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「長生き保険」登場が意味する高齢化社会変化の兆し

先端医療の推進、特にIPS細胞利用医療の急速な実用化が始まり「人が病気で死なない」時代への期待が高まっている。こうした時代に、「長生き保険(長寿の経済リスク保障)」の様な新種保険の発売が目立ってきた。
こうした動きにはどんな意味があるのか、経済的な変化が起こるだろうのか。
目前に迫った超高齢化社会の変化の兆しとも言えそうな「長生き保険」登場の意味を考えてみたい。

日本の高齢化

内閣府の「平成29年版高齢社会白書」によると、日本の高齢化率は約27%に達しており、65歳以上の高齢者人口が3400万を越えている。
さらに平均寿命は、男性が約81歳、女性が約87歳となっており、2065年には約4人に1人が75歳以上に達し、平均寿命も男性で約85歳、女性が約91歳まで伸びることが予想されている。

高齢者世帯の所得は、全世帯平均よりは低いものの生活不安を持つ割合は低い。
これは、世帯主が60歳以上の世帯貯蓄が全世帯平均より5割も多く、万一の備えとなる純貯蓄(平均約1600万円)があるからの様だ。
一方で、従来よりも健康寿命が延びる傾向はあるが、平均寿命の延びに比べると延び率が低く、高齢化世帯には将来の介護費用等への不安感もある。
いわゆる「老老介護」のケースも相当数存在し始めており、介護施設等の定員数は増加傾向だが、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅の定員の増加が目立っており、高齢化世帯の将来的な支出増加に対する警戒感は大きい。

高齢者の自立と生きがいの関係

こうした高齢化社会の到来を予想し、将来の安定した老後を確保するための様々な動きが、中高年世代にみられるようになった。
「健康ブーム」もその一つで、健康寿命を延ばし、豊かな老後生活と、近親者の介護負担や高額な医療費抑制のための先行投資という意識が増加している。

生きがい(はりあいのある生活。生きていて良かったと言う思い)がないと、「生きる意味、生きる価値」がないと感じるのは一般的だが、何を生きがいと感じるかについては多様化している時代だろう。
だが、高齢者が生きがいを感じるためには、健康の確保が重要な要素であり、健康寿命の延伸にも健康維持は必須だ。

内閣府の調査にも、趣味や仕事、旅行等の行動的な生きがいを感じる回答者には、健康状態による差が大きいことが示された。(孫など家族との団らん等に生きがいを感じる人には差が少ない)
少子高齢化が進めば、身内との人間関係が生きがいになりえない可能性もあり、良好な健康状態を維持し、友人やサークル等での関係を保ちながら活発な行動を維持することが、高齢者の生きがいを高める要因となると考えられている。
(参考:公益財団法人長寿科学振興財団「健康長寿ネット」

そして老後対策としても「先立つものはカネ」という考えは根強い。
そこで、最近注目されているのが、「長生き保険」への加入だ。

長生き保険とは

「トンチン年金」あるいは「トンチン保険」という保険種目がある。
一言でいえば、早く死んでしまった場合には損になるが、長生きするほど多額の年金等が受け取れるタイプの保険商品だ。

国内では、日本生命保険がトンチン型の長生き保険を2016年4月から発売し、1年間で契約件数が4万件以上になったと言う。
第一生命保険も2017年3月から同種商品の販売を開始し、長寿命傾向に対応した「長生きリスク」を保障する保険商品は、今後も増加すると思われている。

「トンチン保険」は、イタリアの銀行家ロレンツォ・トンティが17世紀に発案した保険制度で、死亡時の保険金支払額を少なくして差額を生存中の年金給付に充てる仕組みだ。
日本生命が販売する「GranAge(グランエイジ)、長寿生存保険」の加入動機は「高齢時の生活費」や「介護費等の子どもへの負担」を想定した場合が多く、女性の加入割合が高くなっている。

日本生命によると、加入者は50歳代が約4割で、長い「第二の人生」に早めに備える割合が予想以上に多いと報道されている。
第一生命も、2017年3月、同様の仕組みを持つ「ながいき物語」の販売を開始した。
業界上位2社が導入し、長らく主力商品だった死亡保障保険から、長生き保障保険へのシフトが進む可能性が今後大きくなると言う観測が多い。

その理由として、既存の個人年金保険は概ね40代以降では加入不可か返戻率がかなり低くなっていることがあげられる。(理由は払込期間が短く、年金原資が十分確保できないため)
これに対し、日本生命のグランシエは50歳から87歳まで加入可能で、年金開始時期は原則70歳からという設定であり、事前告知なしで簡単に加入できる。
但し、払込期間中の解約・死亡は途中解約と同等の扱いとなり、(契約者死亡の場合でも)解約返戻率が低く(約7割)、終身年金を長期間受け取れない場合にはメリットがない。

終身年金の「一生涯、年金が受け取れる」という安心感の代償として、ある程度以上の期間年金を受け取らないと受け取った年金総額が保険料払込総額を上回らないという、文字通り「長生きしないと元が取れない」商品となっている。

受け取り年金総額が払込累積額を超えるのは、50歳加入の場合でも男性が90歳以上、女性は95歳以上で、その年齢にならないと元本割れとなる。
このため終身保証ではあるが、「かなりの長生き」を前提とした保険商品だ。(ちなみに男性が100歳まで生存すれば、返戻割合は150%になる)
終身年金ではなく、10年確定年金や一括受取に変更もできるが、その場合の返戻率は他の年金商品と同等以下で、やはり長生きを前提とした商品特性は変わらない。

保険会社の経営と保険ニーズ

契約者の長生き保険のニーズに加え、生命保険会社側にも切実な事情がある。
先進医療の発達により、癌の治癒率向上に代表される致命的な疾患の減少や、感染症の死者減少、交通事故死の減少等の様々な要因により平均寿命が延伸し、死亡保障に対するニーズが急激に減少している。

一方、退職後の生活や治癒後の生活保障等を見据え、生命保険よりも有利な貯蓄へのシフトから、生命保険加入率が漸減傾向にある。(運用利回りの低下により、生命保険型貯蓄はかつての様な有利な貯蓄商品ではなくなっていることも背景にある)

また近年主力商品として注力してきた医療保険についても、健康保険の給付内容向上、高額医療費補填制度への理解が進み、医療保険加入率は上昇していない。
さらに、若年者人口の減少傾向もこのニーズ減少に追い打ちをかけており、生命保険会社は新たな主力商品設計を迫られていた。

このことから、相次ぐ長生き保険の登場になったと思われる。
長生き保険の目的の一つである、豊かな老後を長期間維持できる仕組みの新商品等も、今後新たに登場するかも知れない。

超高齢化社会で日本はどうなるか

団塊の世代の大半が年金生活に移行する中で、消費行動の主体や販売ターゲットの設定も変化し、日本の市場全体の方向は多方面化している。
こうした傾向から、今までにない多くの高齢者向け新商品が登場している。

前述した様に、所得水準は平均以下だが貯蓄高は平均以上であると言う老齢化世帯の現実から、将来不安が解消されれば老齢化世帯の消費支出は現在より増加する可能性があり、長生き保険の有効性が評価されたと思われる。
その成功のカギを握るのは、健康寿命の(平均寿命を上回る)進展と、老後の生活保障充実(公的・私的含む)だろう。

長生き保険とは別の発想だが、同じく老後を豊かに過ごすというニーズをとらえた、新しい商品も注目されている。
「モーゲージローン」は不動産担保借り入れのことだが、リバースは「逆」という意味であり、通常は必要資金を借り入れ、その後借入元本(と利子)を毎回返済してゆく方式だが、「リバースモーゲージローン」は、借入金の元本を最後一括返済するまで据え置き、利子のみ支払う「逆住宅ローン」の様な仕組みだ。

居住資産を担保に生活資金等を一時金で受取り、元本返済は居住者の死亡後(相続発生時)で良いと言う商品が多い。
居住資産の一定範囲内で借入資金を受け取ることが出来て、借り入れ後は利払いだけ実施し、元本返済は猶予される仕組みで、不足する生活資金や旅行費用等余暇活用の資金使途を想定している。

東京スター銀行が提供する「充実人生」が、リバースモーゲージ型商品として誕生し、首都圏を中心に評価が高いが、その後も複数の金融機関から各種商品が企画・発売されている。
やはり将来の生活不安への対応や、より豊かな老後へのニーズが背景にあるからだろう。

将来不安と政府の施策について

少子高齢化社会到来で人手不足が深刻化する中、政府は働き方改革で当面の課題を乗り切ろうとしている。
直ちに若年人口を増加させる施策がない以上やむを得ないことだが、その場しのぎ的な対応の側面もあり、団塊世代の老後、特に介護が必要となった場合の介護職不足は(将来ニーズが急減する時代が来ることが容易に予想されるため)適切な人材確保が難しい。

近い将来に、老齢者世帯が様々な負担を強いられる可能性はかなり高いと思われる。
高齢者世帯には将来不安等への様々な対応策が必要だろう。
こうした状況下で、長生き保険等の自衛手段が提供され始めたことは必然なのかも知れない。
しかし、保険やローン等の自衛手段以外にも、ロボットやAI機器利用の高度化等で高齢化社会に対応数する人手不足・資源不足という事態の深刻化を軽減できる可能性もある筈だ。

政府には、将来不安のため消費を抑制し貯蓄を積み増すデフレマインドから、全世代に前向きの思考が出来るように必要な投資を重点的に行い、先進的な施策を発表するなど、人々に明るい未来を感じさせる明確なビジョンを持った政策が進められることを期待したい。

このコラムの執筆者

和気 厚至
和気 厚至

慶應義塾大学卒業後、損害共済・民間損保で長年勤務し、資金運用担当者や決済責任者等で10年以上数百億円に及ぶ法人資産の単独資金運用(最終決裁)等を行っていた。現在は、ゲームシナリオ作成や、生命科学研究、バンド活動、天体観測、登山等の趣味を行いつつ、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れた株式・為替・債券・仮想通貨等での資産運用を行い、日々実益を出している。


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