保険貧乏にならないように!終身保険はできるだけ少額にしておくべき理由

こんにちは、ファイナンシャル・プランナーの横山です(ねこのてFP事務所 代表)。

生命保険に加入するとき、真っ先に思い浮かぶのが「終身保険」ですよね。「貯蓄性がある」というメリットが支持されているため、多くの人が加入しています。

ただ、終身保険をはじめとする「貯蓄性のある保険」でどれだけの保障を準備しておくべきかは、なかなか難しい問題です。

「子供たちに少しでも(現金の形で)財産を残してあげたい」
「老後の生活のために今から準備したい」

といった希望をかなえたいところですが、多くを終身保険でまかなおうとすると、保険料が割高になってしまうのが難点です。

そこで今回は、「貯蓄性のある終身保険はできるだけ少額にしておく方がいい」というお話をしたいと思います。

貯蓄性のある保険での平均保障額はどれくらい?

まずは、平均的な終身保険の保障額を考えてみましょう。

生命保険センターによる「生命保険に関する全国実態調査(平成27年度)」と、生命保険協会による「生命保険の動向(2016年版)」の2つのデータから推定します。

「生命保険に関する全国実態調査」では、いろいろな世帯タイプ別に「加入している保険の死亡保障額がどれくらいか?」がわかります。

≪世帯タイプ別の死亡保障額≫

世帯のタイプ死亡保障額(万円)
夫婦のみ40歳未満1524.0
40~59歳1886.9
子供あり世帯
(末子の年齢で分類)
乳児2001.5
保育園児・幼稚園児2143.4
小・中学生2276.5
高校・短大・大学生2141.3
就学終了1174.4
高齢世帯(60歳以上)有職1007.3
無職603.8
その他1135.8

生命保険センター調べ 「生命保険に関する全国実態調査(平成27年度)」より作成
(URL:http://www.jili.or.jp/press/2015/nwl10.html

どの世帯でもかなり大きな死亡保障を準備しているようです。

しかし、若い世代や仕事をしている人がいる世帯では終身保険に加えて定期保険に加入しているケースが多くなってしまいます。

そこで、終身保険の割合が高くなる「高齢夫婦無職(60歳以上)」の死亡保障額を見てみると、「603.8万円」となっています。

この600万円程度の死亡保障はあくまで平均のため、それなりの資産を持っていて多額の終身保険に加入している人も含まれているでしょう。

その分を差し引いて考えると、一般的な死亡保障額は「300~500万円程度」といったところでしょうか。

次に、生命保険協会の「生命保険の動向(2016年版)」です。こちらでは、生命保険の保険金等支払金のデータが公表されています。

≪生命保険の保険金等支払金データ≫

保険金の種類支払件数支払額1件あたり支払額
死亡保険金101万件2兆8,336億円280万円
満期保険金69万件1兆4,428億円209万円

生命保険協会 「生命保険の動向(2016年版)」より作成
(URL:http://www.seiho.or.jp/data/statistics/trend/

1件あたりの支払額にすると、死亡保険金で280万円、満期保険金で209万円となっています。
両方とも貯蓄性のある保険で、満期保険金が受け取れる生命保険金にも死亡保障がついています。

ということは、この合計額である「489万円」から掛け捨ての定期保険で備えられていた部分を差し引いた額が、終身保険や養老保険といった貯蓄性のある保険で準備している死亡保障だと考えることができそうです。

ですので、貯蓄性のある生命保険で備えている一般的な死亡保障額は「300~400万円程度」とみなすことができるでしょう。

両方のデータから推定すると、一般的に貯蓄性のある生命保険で備えている死亡保障額は「300~400万円程度」と考えてよいでしょう。

終身保険は葬儀代や入院費用の備え

入院

一般的な死亡保障額がわかったところで、次に、貯蓄性のある保険の中でも特に「終身保険」で何に備えるのかを考えてみましょう。

終身保険では、葬儀代や入院費用の支払いに備えることができます。

人が死亡すると、その人の銀行口座はすべて凍結されてしまい、相続の方針が決定しないとお金を引き出すことができません。

しかし、生命保険金は被保険者が死亡したあと、保険金受取人が保険金を受け取ることができるのです。

そのため、終身保険に加入しておくことで、遺された家族に余計な負担をかけずに済むというメリットがあります。

日本消費者協会の調べ(2010年 URL:http://jca-home.com/pub/pub_guide3.html)によれば、葬儀費用は平均で約189万円とされています。

また、生命保険文化センターの調査から推定すると、入院費は1日あたり1万円前後になることが多いようです(ただし、差額ベッド代等を含む)。

これらの支払いのことを考えて、終身保険の死亡保障を「300~400万円」にしている人が多いのではないかと思われます。

すぐに終身保険ですべてを備えておくべき?

けれども、本当にそれだけの保障が「今すぐに」必要なのでしょうか?

保険に加入するときに考えておかないといけないことは、「老後や不慮の事故のこと」だけではありません。

保険の入りすぎで「今の生活を犠牲にしてしまわないか」も考えなくてはなりません。

私自身、お客様にライフプランを提案するときには、必ず、「今」と「将来」の両面を考えるように心がけています。

将来

終身保険など貯蓄性の高い保険は、掛け捨てタイプの保険よりも保険料が大幅に高くなってしまいます。

しかも、今の終身保険の保険料は、低金利による予定利率の引き下げで、割高になってしまいました。

昔であれば「かなり安全な資産運用」をも兼ね備えた優れた金融商品でしたが、そのメリットも失われつつあります。

そんな環境の中で保険会社も努力をしていますが、「解約返戻金を大幅に下げる」ことで保険料を引き下げているものが多く見られます。

その結果、60歳までに保険料を全額払いこむタイプの終身保険でも、65歳や70歳にならないと解約返戻金が総支払保険料を上回らないものがほとんどになっています。

つまり、貯蓄性を求めて終身保険に加入しても、年金を受け取れるくらいの年齢になるまでその恩恵が受けられないのです。

そして、必要な死亡保障額が正しいのかどうかも問題です。

自分が高齢になって死亡する場合、その頃の葬儀代がどれくらいになっているのかを予想することはできないでしょう。

「質素な葬儀にして欲しい」といった希望をすることはできるでしょうが、金額を指定することは難しいはずです。

それならば、「今の葬儀代の平均」である200万円を基準にしなくてもよいかもしれません。

また、入院費については、医療保険に加入しているのであれば保障が受けられるため、より少額で見積もることもできるでしょう。

このように考えると、平均的な死亡保障額と考えられる300~400万円が受け取れる終身保険に、今すぐ加入する必要はないということができます。

終身保険は今のところ少額にしておいて、追加も考えてみよう

いくら必要な保障だからと言っても、保険に加入しすぎて「保険貧乏」になっては意味がありません。

切り詰めた生活をしたせいで体調を崩してしまえば、よけいな出費が発生して、より切り詰めた生活をしなければならないかもしれません。

その結果、せっかく加入した保険を解約しなければならなくなれば、解約返戻金で戻ってくる金額も保険料よりも大幅に減少してしまいます。

赤字

そこで、終身保険に加入するときはまず、生活に支障がない範囲で少額での加入をしてみてはいかがでしょうか。

その上で、生活に余裕が出てきたときに追加で加入して、目標の死亡保障額を準備しましょう。

「保険は保険料が安い若いうちに加入しなければ意味がない」と思う方もいるかもしれません。
しかし、貯蓄性のある保険は、何歳で加入しても貯蓄性があることには変わりありません。

違うのは加入時期が遅れる年数分だけ「運用で増やせる期間」が短くなることですが、低金利時代のため何十万円もの差は出ません。

あんしん生命の終身保険を使って、どの程度の差があるのかをシミュレーションしてみました。

≪加入年齢による保険料と解約返戻率の差≫

30歳35歳40歳45歳45歳(年払)
月払保険料4,590円5,594円7,102円9,548円113,420円(年間)
総支払保険料170.8万円174.6万円179.0万円183.4万円181.5万円
30歳加入との差額3.8万円8.2万円12.6万円10.7万円
利回り0.45%0.42%0.37%0.32%0.35%

終身保険のシミュレーション条件
※30・35・40・45歳の男性
※死亡保険金は200万円(60歳払済)
※利回りは男性の平均寿命に近い80歳時点でのもの

いかがでしょうか。

確かに、若いうちに加入した方が保険料も安く、利回りもよくなります。

ただ、30歳で加入した場合と45歳で加入した場合でも、保険料の差額は12万円程度です(保険料の支払いを「年払」にすれば、その差は少し縮まります)。

その間の保険料の差額は、定期預金などで運用することもできるため、実質的な差額はもっと小さくなります。

しかも、突然多額の出費が必要な事態になってしまっても、その出費に充てることもできます。

保険を解約する事態になるかもしれないリスクを考えると、貯蓄性のある保険に限っては、最初から無理をして希望する保障額全額を準備できるものに加入する必要はないのです。

ただ、小さな子供がいる人などでは特に、貯蓄性のある保険を少なくするのとは別に、掛け捨てタイプの定期保険で保障を準備しておくことも忘れないようにしましょう。

なお、加入できる保険金額や1回の支払保険料に下限が設けられていて、そのために加入できない場合もあります。

その条件は保険会社によって変わるため、保険会社の担当者や代理店に確認をしておきましょう。

「リスクに備える保険に加入するリスク」を意識して、計画的に加入しましょう

今の時代は、昔のように年齢とともに収入が増える保証はありません。

だからこそ、これまで以上に「今の生活」も重視したライフプランを考えなければなりません。

「保険に入っていれば大丈夫」ではなく「しっかりと計画的に保険に入っているから大丈夫」になるように注意しましょう。
「保険料を払うとどんなリスクがあるのか」まで考えて、保険貧乏になってしまわないようにしましょう。

※掲載記事の内容は2016年11月15日時点のものです。

執筆者

横山 研太郎
横山 研太郎ねこのてFP事務所代表

富士通株式会社退職後、メーカーの経営サポート等を行う。 現在は、ファイナンシャル・プランナーとして、資産運用を柱としたアドバイスをするだけでなく、学生への金融教育にも取り組んでいる。


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